手付倍返し

ある日、一本の電話が舞い込んできた。それは一般媒介で受けた案件についての問い合わせだった。「その物件、買いたいんだけど」と言われ、私は喜んでお客様に物件の詳細を説明し始めた。しかし、お客様は何かを知っているようだった。

売り主に物件を確認すると、「それは決まってしまっている」との回答が返ってきた。お客様にすぐに伝えると、驚くべき提案が飛び出した。「それは知っているから、そちらをキャンセルして自分の方に回してくれないか」というのだ。それも倍返しの費用も買主負担のほか売買代金も今の契約より高い金額で買いたいというのである。

まるで棚からボタモチのような話だった。おそらく、このお客様は私たちの不動産会社以外にも問い合わせをしており、他の不動産業者からは物件が成約済みだと断られていたにもかかわらず、偶然にも私たちの会社で物件が未だに掲載されていたことを知ったのだろう。

これはまさにおいしい話に聞こえたが、私は田舎の正直な不動産業者として、「申し訳ありません、弊社では取り扱えません」と丁寧に断った。理由は、まだその物件自体を内覧してなく、ただ横取りしたいという考えだと察知したのである。

不動産取引は縁起物だ。私たちの役割は、仲人のようなものだ。だから、この仲人が二人の争いに巻き込まれて他社で契約した案件を手付倍返しで奪うことはできないと思うのだ。

不動産業界の摩訶不思議な世界に身を置きながらも、私は正直さを守り、縁を大切にしていく決意をしたのである。

投稿者プロフィール

関谷 真史
関谷 真史
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